「損害賠償で払わないといけないお金があるけど、自己破産したら払わなくていいのかな?」
交通事故などで払う損害賠償は、加害者が被害者に損害を与えたことへの償いとして払うお金です。損害賠償の内容によっては、高額になり支払いが大変になることも…。
損害賠償に加えて様々な借金を抱えていると、毎月の返済が厳しくなり、自己破産を選択せざるをえない人もいます。自己破産すると借金が無くなるイメージがありますが、実は全部の借金が無くなるわけではありません。
この記事では、損害賠償が自己破産しても免除されない理由や具体例を紹介するので、自己破産の申請を考えている場合は、参考に読んでみてください。
(トップ画像出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/3343821?title=RISK%20%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF)
自己破産はどんな手続き?申請の条件は?
自己破産は債務整理の1つで、裁判所に「借金の返済が難しいので、返済を免除してください」という申請をします。裁判所から認められれば、借金の返済が免除されます。
申請の条件は、「安定した収入が無く、将来も収入の見込みが無いこと」と「毎月の返済金額が収入を上回っていること」です。無職や毎月の収入が不安定の場合は、自己破産で申請することになります。
もし、現在会社員や個人事業主で、毎月一定の収入があり、借金の総額が5,000万円以下であれば、個人再生の申請ができる可能性はあります。
個人再生は、借金を大幅に減額でき、財産を残せる手続きになります。どの債務整理をすれば良いかわからない場合は、上記を目安に考えてみてください。
自己破産をするとどんなデメリットがあるの?
自己破産すると、借金の返済は免除されるというメリットはありますが、当然デメリットもあります。自己破産をすると起きるデメリットは次の3つです。
- 信用情報に事故情報が残って、ローンが組めないまたはクレジットカードが作れない
- 必要最低限の財産以外は没収される
- すべての借金が無くなるのではない
信用情報に事故情報が残るとブラックリストとなり、5年から10年は新しい借入ができません。ローンが組めなくなったり、クレジットカードが作れなくなったりするのが具体的な例です。
また、自己破産をすると、生活に必要な財産以外は全て没収され、売却されるなどして債権者の返済にあてられます。現金から車、家まで財産と見なされたものは、基本的に没収されます。
自己破産で注意してほしいのは、借金の返済が免除される手続きですが、一部のものについては返済が免除されません。具体例は次の章で解説しますね。
自己破産したら借金は全部免除される?
自己破産をしたら、借金は全て免除されると思われがちですが、全ての借金が無くなるわけではありません。裁判所の判断により、免除されるものと免除とならないものがあります。
具体的には「免責不許可決定」された借金と、元々免除ができない借金(非免責債権)に分けられます。
免責不許可決定とは?
裁判所に自己破産の申請をしても、借金の免除が認められないことがあります。これを免責不許可決定と言います。免責不許可決定となる場合は、借金が次のような理由に該当した場合です。
- FXや株などの投資
- 収入を大きく超えるような買い物(浪費)
- 競馬、パチンコなどのギャンブル
- 財産があるが、隠して自己破産を申請した
- 自己破産を申請する1年以内に、所得証明書などを偽造してお金を借りる
- 自己破産の申請前に特定の債権者だけ返済をする
借金の理由が上記に該当すると、自己破産を申請しても不許可となるので、借金が免除されません。
非免責債権とは?
自己破産を申請して許可が出ても、元々支払いが免除されないものがあります。これを非免責債権(ひめんせきさいけん)と言います。次のようなものが非免責債権に該当します。(具体例は別の章で解説します)
- 租税等の請求権や罰金
- 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- 破産者が扶養義務者として負担すべき費用に関する請求権
- 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
- 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
自己破産しても支払いが必要な損害賠償①悪意で加えた行為
ここからは自己破産しても免除されない損害賠償を紹介します。(前の章で説明した2、3にあたります。)自己破産しても支払う必要のある損害賠償1つ目は「悪意で加えた行為」です。
ここでの「悪意」とは、「相手に対し自分から進んで損害を与えようとする意志」を指します。悪いことと認識していてやったことが「悪意で加えた行為」となるのです。
個人的なトラブルがあって、被害者に因縁をつけて財産を壊したり、盗んだりすることが具体例でしょう。ものだけでなく、相手の精神を追い込むような行為も含みます。
この悪意で加えた行為により発生した損害は、自己破産しても被害者へ弁償をしなければいけません。
自己破産しても支払いが必要な損害賠償②生命や身体を害する行為
自己破産しても支払う必要のある損害賠償2つ目は「生命や身体を害する行為」です。
生命や身体を害する行為は、「故意又は重大な過失により加えた行為」です。故意と過失は次の意味になります。
- 故意:自分の行為が相手の権利を侵害することを認識していること
- 過失:何かを注意しなければいけない義務があるのに、見逃してしまったこと
過失だけでは、どこまで注意をしなければいけない義務かが、わかりづらいですよね。注意すれば、人がケガをしたり亡くなる結果を防げたのに、それをしなかった場合が「重大な過失」になるのです。
例えば、交通事故の原因である飲酒運転ならばお酒を飲まない、居眠り運転ならば仮眠を取っておくなど事前に対策を取ることができます。その対策を取らなかったのが原因で、事故が起きたら重大な過失となるのです。
自己破産しても支払いが必要な損害賠償➂DVなどによる慰謝料
自己破産しても支払う必要のある損害賠償3つ目は「DVによる慰謝料」です。
離婚の原因がDVである場合の慰謝料は、損害賠償と見なされるので、自己破産した場合でも支払いをしなければいけません。
暴力によるDVでも精神的なDVでも、先ほど説明した「生命や身体を害する行為」にあたるために、損害賠償となるのです。
さらに、DV自体が「自分から進んで相手の権利を侵害しようとする行為」でもあるので、加害者が相手に損害を与えるつもりが無いと主張しても、悪意がある行為と見なされるのです。
損害賠償でも支払いを免除されるものがある?
損害賠償の支払いでも、中には自己破産により支払いを免除されるものがあります。
例えば、交通事故であれば、重大な過失があったものについては支払いを免除されません。しかし、一般的な過失(例:わき見運転)で起きた事故による損害賠償については、支払いを免除されることがあります。
危険運転致死傷害罪が成立するような原因の交通事故については、故意または重大な過失があったと見なされるので、損害賠償は免除されません。(例:飲酒運転、居眠り運転)
離婚であれば、DVが原因で発生した損害賠償や子どもの養育費は免除されません。浮気による損害賠償については、免除される可能性があります。
損害賠償の他にも免除されないものがある
損害賠償は別の章で説明したとおり、原則は自己破産しても免除されない非免責債権です。損害賠償以外にも、自己破産しても支払いが免除されないものがあります。具体的には次のようなものです。
- 税金(所得税、消費税など)
- 社会保険料、国民年金保険料、介護保険料
- 子育て拠出金(保育費)
- 水道料金(自治体が徴収しているもの)
- 罰金
- 婚姻費用、養育費
- 従業員の給料の未払金、預かり金
- 債権者一覧表に記載しなかった借金
基本的に国や自治体に支払うものは減額できないと考えてください。税金や社会保険料などは、自己破産後に支払いをするのは厳しいでしょう。
自治体の窓口で自己破産により経済状況が厳しいこと、支払う意思があることを説明すれば、分割払いに変更したり、支払いを待ってもらったりできる制度があります。
自己破産で損害賠償の支払いを延長したい場合は?
自己破産すると、必要最低限の財産しか残らないため、損害賠償を支払うのは大変になるでしょう。損害賠償に加えて税金や社会保険料なども支払わなければいけません。
この場合は、損害賠償を支払う相手(被害者)と交渉して、支払いを延期してもらう必要があるでしょう。ただし、自分と相手で直接話し合うと、交渉が上手くいかない可能性があります。
自己破産を申請した弁護士等に交渉を依頼するなど、現在の財産状況を理解している人に仲介に入ってもらうことをおすすめします。
損害賠償は自己破産すると免除される? まとめ
今回は自己破産をすると損害賠償はどうなるのか理由と共に解説しました。自己破産は借金の返済がすべて無くなると思われがちですが、借金でも支払いをしなくてはいけないものがあります。
自己破産は「借金の返済が大変ならば、借金を無くして経済基盤を安定させる」という前提の制度です。自己破産直後は、最低限の財産しかないので経済的に厳しい状況でしょう。
借金の返済が無くなっても税金などの支払いは残るので、まずは安定した収入を得て、余裕を持った支払いができるようにすることが大切ですね。