今回は2020年4月より法律改正がある、借金の時効期間について取り上げました。「ニュースで犯罪の時効はよく聞くけど、借金にも時効があるの?」と思いますよね。
お金を借りたら当然返済はしなければいけませんが、事情があって支払いができないことがあります。逆にお金を貸したら、事情があっても早めにお金を返してほしいですから、色々と対応しますよね。
この記事を読めば、借金の時効期間の基本的な考え方、法律改正で今までの借金の時効がどのように変わるのかがわかりますので、過去にお金を借りた(または貸した)ことがある人は参考にしてください。
借金に時効があるの?
時効って犯罪とかで聞く、何年かたったら捜査が打ち切られるやつだよね?あれって犯罪だけじゃないの?
時効という言葉は、主に重大な犯罪で犯人が捕まらない時に聞きますよね。「□□年○月×日に起きた△△事件は、◇◇年○月×日に時効成立です。」という言葉をニュースで聞いたことはありませんか?
時効と聞くと主に犯罪関係で使われるイメージがありますが、実は借金も法律で時効が定められています。
他人にものを売ったり貸したりした場合、一定期間、債権者(お金を貸したりものを売った人)が債務者(お金を貸した人やものを買った人)に対して、代金の支払い等を請求しなかった場合、その権利が消滅します。
一般的に借金の返済を請求する権利は、債務者に1度も請求しなかった場合は10年間で消滅します。次からは、借金の時効がどのようにしたら成立するのか、中断されることがあるかなど、具体的に解説していきます。
借金の時効期間はどのくらいなの?
借金の時効期間は、民法では原則10年間です。ただし、お金を借りた(貸した)状況により、適用される時効が変わるので、期間が1年~10年となります。時効期間の判定基準は次のように決められています。
時効期間 | 時効の一例 |
1年 | ホテルの宿泊費、飲食店の料金、タクシー料金、レンタルビデオの料金 |
2年 | 学校や習い事の授業料、商品の代金 |
3年 | 病院の診察料、工事の代金 |
5年 | 家賃、マンションの管理費・共益費、金融機関からの借入 |
10年 | 個人間のお金の貸し借り |
※上記の表はあくまで判断の基準のため、「この場合の時効は何年間になるの?」と思ったら、弁護士など法律の専門家に確認をした方が確実です。
例えば、飲食店でつけ払いをしている人に、最後に支払ってもらった日から1年間請求をしないと、時効が成立して料金を請求できなくなります。
借金の時効期間を決めている民法では、契約期間などを計算する時、契約の効果が発生する期間の初日を含めない「初日不算入」という原則があります。
例えば、借金の契約をした時に返済日を3月1日に決めた場合、時効は返済日の3月1日ではなく3月2日から数えることになります。
ただし、2020年4月の民法改正で借金の時効期間は、原則5年間または10年間に統一されます。法律改正の内容はこのあと詳しく説明します。
借金の時効期間は5年or10年?
先ほどの表を見ても、自分が現在借りている(貸している)お金の時効が5年または10年なのか、それとも他の期間なのかわかりにくい…と思う方もいるでしょう。
基本的には、個人間のお金のやり取りは10年間、商売に関係するお金のやり取りは5年間と考えましょう。
例えば、個人で商売をしている場合、借金の契約をする理由が商売に関係するのであれば、個人間の契約でも時効は5年となります。
また、銀行や消費者金融からお金を借りた場合は、金融機関はお金を貸すことを商売としているため、契約相手が個人でも時効は5年間となります。
時効の中断って何?中断したら期間はどうなるの?
債権者(貸す側)はしっかりと返済がされる前提でお金を貸すので、返済が滞った場合には債務者に対して状況を確認する連絡を入れるのが通常です。
債権者は債務者(借りた側)へ借金の返済請求することで、経過していた時効期間をリセットできます。これを「時効の中断」と言います。
債務者から最後に返済があった日から4年過ぎたと仮定します。債権者が返済を求める裁判をし、判決が出ると、今まで経過していた4年間の時効はリセットされます。
時効の中断は様々な方法で成立しますが、良く使われる例を取り上げました。
- 債権者が債務者へ裁判所を通して支払催促を行う
- 債務者へ書面で借金の返済を求める文書を送る
- 債務者に1円でも返済をさせる
債権者が債務者へ裁判所を通して支払催促を行う
債権者が裁判所を通して「お金を貸しているので、返済してください」と債務者に支払催促の訴えを起こすことで時効の中断ができます。裁判所が判決を出すと、時効期間が5年間から10年間に変わります。
この場合の時効は、判決が出された日から10年間で計算されるので、今まで経過した日数はリセットされることに注意しましょう。
債務者へ書面で借金の返済を求める文書を送る
債権者が、「お金を貸しているので、返済してください。」という内容を記載した書面を債務者に送ることで、一時的に時効の中断ができます。
普通郵便で書面を送ると、書類が届いていないなどの問題が起きる可能性も。そのため、内容証明郵便で送ることで、書類が債務者に確実に届くようにしましょう。
ただし、この方法は裁判所を通さないため書面で送った証拠があっても法的な効果がありません。債権者は書面を送った日から6カ月以内に債務者に返済させるなど対応が必要です。
もし、6カ月以内に訴えを起こすなど対応しなかった場合、時効の中断が起きずに今までの時効がカウントされるので注意しましょう。
債務者に1円でも返済をさせる
金融機関は、返済が滞っている債務者に「100円でもいいから払ってください。」など返済催促の電話や書類を送ることがあります。
このとき1円でも金融機関へ支払うと、債務者は「あなたからお金を借りています。」と認めることになり、時効の中断が起きます。金融機関は借金の時効が成立しないように、少額でも返済させることが多いです。
時効の援用って何?どうやったら成立するの?
借金の時効期間が過ぎた場合、債権者(貸した側)から返済を求められても、「借金の時効が成立したので返済しません。」と返済を断ることができます。これを「時効の援用」と言います。
時効の援用は、借金の時効期間が過ぎても自動的には成立しません。債務者(借りた側)が、時効の援用について記載した書面を債権者に送ることで初めて成立します。
普通郵便では届かないなど問題が起きる可能性があるので、内容証明郵便で書面を送るのが確実です。口頭でも時効の援用は成立しますが、証拠を残すためにも書面にする方が安全でしょう。
借金の時効成立は難しい?
借金の時効成立は条件がそろえば可能ですが、実際に成立する事例はなかなかありません。特に銀行などの金融機関(債権者)は、お金の回収について専門家ですので、時効が成立しないよう常に対策をしています。
時効の中断が起きると今まで経過していた時効はリセットされ、時効期間は10年となります。借りた側は、返済金額に加え、利息など支払う金額が増えてしまい、時効成立前に精神面で耐えられない人が多いです。
個人間のお金の貸し借りで、借金の時効が成立する事例はあるようです。しかし、基本的にお金を借りた(貸した)場合は、時効期間が過ぎる前に個人間で解決をするようにしましょう。
借金の時効が成立しても起きる問題
もし、条件がそろって借金の時効が成立しても、過去に借金をした記録は残っています。時効成立後に起きる問題は次のような例があります。
- 信用情報機関にブラックリストで記録が残る
- 自動車ローンや住宅ローンが組めず、クレジットカードも作れない
信用情報機関にブラックリストで記録が残る
ローンを組んだり、クレジットカードを発行したりするときは審査があります。金融機関は、信用情報機関に問い合わせて個人のローンなどの返済状況に問題がないかチェックしています。
過去にローンの返済が遅れたり滞納していると、個人の返済能力に疑いがかかり、ローンの審査やクレジットカードの発行に時間がかかります。
このため、時効の援用が成立した場合でも、最低5年間は信用情報機関に借金の支払いが止まっている記録が残るので、ブラックリストになってしまいます。
自動車ローンや住宅ローンが組めず、クレジットカードも作れない
先ほど説明したとおり、ローンを組むときは、審査の段階で過去に借金の返済が遅れていないか確認されます。5年間は借金の返済が遅れている記録が残るため、返済能力が無いとみなされてローンが組めなくなります。
クレジットカードの発行も同様に、審査の段階で個人の返済能力が無いとみなされて新しくカードを作れません。さらに注意してほしいのが、5年経過した後でもローンを組めない可能性がある点です。
時効の援用が成立した金融機関のグループ会社とローンを組むとします。すると、グループ会社で共有している取引記録を確認する可能性も。その情報を基に、ローンを組めないと判断することは十分にありえるのです。
時効期間が過ぎても返済義務が復活する…?
借金の時効の援用が成立しても、将来の生活に問題があることを解説しました。さらに時効期間が過ぎても返済義務が復活することがあります。
借金の時効は最後に返済があった日から数えますが、時効期間が過ぎてから1円でも返済をすると、「私はあなたに借金があるので返済をします」と認めることになります。
そのため、時効期間が過ぎてから1円でも返済してしまった場合は、ふたたび返済義務が発生するので注意しましょう。
法律改正で借金の時効の期間が変わる!(2020年4月より)
2020年4月から始まる民法の改正により、借金の時効について変更がありました。今回の改正で注意すべき点は主に3つです。
- 債権の種類(お金を借りた状況)ごとに決められていた時効は廃止
- 借金の時効期間が主観的起算点から5年または客観的起算点から10年へ
- 法律改正前にお金を借りた場合は、改正前の法律が適用される
債権の種類(お金を借りた状況)ごとに決められていた時効は廃止
飲食代金は1年、工事代金は3年など、お金のやり取りがあった状況によって時効の期間が決められていましたが、法律の改正により廃止となり、すべての時効が5年または10年となりました。
例えば、飲食店でのつけ払いは今まで1年で時効成立でしたが、これからは基本的に5年または10年が時効期間となります。
5年または10年となる基準は、次に説明する「主観的起算点」または「客観的起算点」です。
時効期間が主観的起算点から5年または客観的起算点から10年へ
今までは、客観的起算点から10年間のみでしたが、今回の改正で「主観的起算点から5年」が追加されました。主観的起算点、客観的起算点は次の意味になります。
- 客観的起算点:債権者(貸した側)が債務者(借りた側)へ、返済を求める権利が発生した時点
- 主観的起算点:債権者が債務者へ返済を求める権利があると認識した時点
借金の契約をして返済日を決めた場合、債権者は返済日まで債務者に返済の請求ができません。返済日を過ぎても返済されない場合、債権者は債務者へ返済請求する権利を持つことができます。
債権者が返済請求する法的な権利を持った時が、客観的起算点となります。主観的起算点とは、債権者が「債務者へ返済を請求していいんだ!」とわかった時点となります。
ここでは、詳細な説明をすると複雑になるので省略しますが、客観的起算点と主観的起算点は、契約した時の書面が残っていれば基本的に一致します。
そのため、借金の時効期間は主観的起算点から5年に短縮されたと考えてよいでしょう。
例えば借金の契約をして3月1日を返済日と決めた場合、債権者は3月1日より前に返済をお願いすることはできません。(個人間で同意した場合は例外です)
3月1日以降返済されない場合、債権者が返済請求できる権利を持つ=客観的起算点となります。客観的起算点は、債権者が返済請求できる権利を持っていると知らない場合も含んでいます。
しかし、借金の契約をする時にお互いに返済日を確認して契約するため、返済が期日より遅れたら債権者は何かしら対応しますよね。
そのため、債権者が返済請求できるのは返済日3月1日以降と認識している=主観的起算点となります。基本的には、客観的起算点と主観的起算点は同じになると考えられます。
法律改正前にお金を借りた場合は、改正前の法律が適用される
今回の法律改正では、4月1日以降に借金の契約をした場合は、改正後の法律が適用されます。ただし、4月1日より前に契約した借金については、改正後の内容は適用されません。
極端な例ですが、3月31日に個人間で契約した借金の返済日が4月1日の場合、法律は改正前の内容が適用されます。個人間の借金となるため、時効は10年となります。
借金の時効期間を確認したいときどうすればいいの?
借金の時効期間が過ぎているか確認したい場合は、自分で期間を計算するよりも弁護士などの専門家に依頼した方が安全です。
債務者が時効が成立していないのに時効の援用を主張した場合、「借金がありますが、返済をしていませんでした。」と認めることになり、利息+延滞利息+損害利息…など返済金額が膨大になってしまいます。
返済が難しく困っている場合は、弁護士などの専門家に依頼し、どのようにしたら良いかアドバイスをもらう方が安全ですね。債務整理など別の解決案を考えてくれます。
まとめ
今回は、借金の時効期間の基本的な内容と、2020年4月の民法改正による変更点について解説しました。
借金をしたことが無いと、あまり関係のない内容と思いがちですが、例えば親戚や友人にお金を貸したり、逆に借りたりする機会が将来あるかもしれません。
そんな時に、借金に時効があることを知っておかないと、「お金を貸したら(借りたら)、いつの間にか時効になってしまった…。」という事態が起きる可能性もあります。
借金の時効について、基本的なことを知っておけば、自分が悔しい思いや苦しい思いをせずに済みますよ。