遺産を相続するときに、マイナスの財産(借金)があったら自分が借金を背負わなくてはいけないのかと不安になりますよね。
「借金を背負わなくてはいけないの?」「借金なんか相続したくないよ」と考えている方も多いでしょう。
この記事では、遺産のすべてを相続する単純承認。遺産の一部を相続する限定承認。遺産を放棄する相続放棄。について紹介・説明をしていきます。
遺産を引き継ごうかどうか迷っている方はぜひこの記事に目を通してしてください。
(トップ画像出典:https://pixabay.com/ja/photos/%E3%81%8A%E9%87%91-%E8%B2%A1%E5%B8%83-%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%B9-%E7%8F%BE%E9%87%91-3219298/)
被相続人に借金があるか調べる
まずは、被相続人が借金をしているのかどうか調べる必要があります。
被相続人が生きている場合と亡くなっている場合についてそれぞれ見ていきましょう。
被相続人が生きている場合
被相続人が生きている場合は、借金をしているのか調べることはできません。
以下の条文の通り、貸金業者は債務者の借入に関する事実を債務者と保証人以外には明らかにしてはいけません。
貸金業法二十一条
貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
五 はり紙、立看板その他何らの方法をもつてするを問わず、債務者の借入れに関する事実その他債務者等の私生活に関する事実を債務者等以外の者に明らかにすること。
出典:貸金業法第21条1項5号
つまり、被相続人が借金をしているのかは本人から聞き出すしかありません。
被相続人が死亡している場合
被相続人が死亡している場合は、借金をしているのかどうか調べることができます。
戸籍謄本などのあなたが法定相続人であることを証明する書類を提出すれば、貸借業者や信用情報機関から回答をもらうことができます。
借金を相続する単純承認
単純承認とは被相続人のプラスの財産とマイナスの財産をすべて引き継ぐことです。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
出典:民法第896条
被相続人がマイナスの財産(借金など)を抱えていたとしても、プラスの財産がマイナスの財産よりも多ければ、トータルでプラスになるので単純承認をすることをおすすめします。
単純承認は特別な手続きをする必要はありません。相続人が相続をするのかどうかを考えることができる熟考期間の3か月間特に何の手続きもしなければ、自動的に単純承認となります。
借金を放棄する相続放棄
相続放棄とはプラスの財産、マイナスの財産にかかわらずすべての財産を放棄することです。
以下の条文からもわかるように相続放棄を行うと、もともと相続人ではなかったという扱いになります。
第939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
出典:民法第939条
プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多くて、単純承認をしてしまうと借金を背負うことになる場合などは相続放棄をすることをおすすめします。
相続放棄の方法
相続放棄をするための手続きを見ていきましょう。以下の通りに進めていくことで手続きが完了します。
- 裁判所に必要書類を提出
- 裁判所からの照会に回答
- 相続放棄が受理
裁判所に必要書類を提出
裁判所に必要書類を提出することで手続きが始まります。必要となる書類は以下の4つです。
- 相続放棄甲述書
- 亡くなった方の住民票除票
- 亡くなった方の戸籍の附票
- 亡くなった方の戸籍謄本
相続放棄申述書は裁判所、もしくは家庭裁判所のホームページからダウンロードできます。
裁判所からの照会に回答
裁判所から照会書が送付されます。ここには以下のようないくつかの質問が記載されています。
- あなたの名前で、相続放棄の申述行われていることを知っているか
- その手続はだれが行ったか
- あなたが被相続人の死亡を知った日はいつか
- 知ることとなった経緯は何
- 被相続人の遺産には、どのようなものがあるのか
- 被相続人の遺産で既に相続をしたものはあるか
- 相続放棄をする理由
相続放棄が受理
裁判所から相続放棄に問題がないと判断されれば相続放棄が受理されます。
相続放棄が受理されると、相続放棄受理通知書が送られてきます。
相続放棄のデメリット
負の財産を引き継ぐことがなくなる相続放棄ですが3つほどデメリットがあります。
- 新たな相続人が出てくる
- 取り消せない
- プラスの財産を一切相続できない
新たな相続人が出てくる
第一順位の相続人(被相続人の配偶者と子供)が相続放棄を行うことで、その人はもともと相続人ではなかったという扱いになります。
そうなると、第二順位の相続人(被相続人の父母、祖父母)が相続人となり、第二順位の相続人も相続放棄を行うと、第三順位の相続人(被相続人の兄弟姉妹)が相続人となります。
このように、あなたがマイナスの財産を相続したくないがために相続放棄を行うと、周りの家族や身内が相続人になる必要が出てくるため、第一相続人が第二・第三相続人に事前に説明を行わずに、相続放棄を行うともめごとに発展してしまう可能性があります。
取り消せない
1度相続放棄を行うと、2度と相続放棄を取り消すことができません。
相続放棄を行った後に新たに財産が見つかり相続したくなったとしても、その時には相続人ではなくなっているので財産を相続することは不可能です。
プラスの財産が一切相続できない
相続放棄を行うことでマイナスの財産を引き継ぐ必要がなくなりますが、その一方でプラスの財産も一切引き継ぐことができません。
限定的に借金を相続する限定承認
相続の方法として単純承認、相続放棄の他に限定承認というのもあります。限定承認の説明は以下の民法第922条を見てください。
第922条
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
出典:民法第922条
つまり、限定承認とは相続によって得たプラスの財産の限度において、被相続人の債務などのマイナスの財産を相続することです。
例えば、プラスの財産が500万円分、マイナスの財産(借金)が1000万円あったとします。その場合は、プラスの財産の500万円とマイナスの財産(借金)を500万円分だけを引き継ぐということです。
財産がトータルでプラスかマイナスか分からなかったり、手放したくない財産がある場合は限定承認をすることをおすすめします。
限定承認の方法
限定承認の申請方法を見ていきましょう。限定承認は以下の流れで行うことで認められます。
- 相続人全員による協議
- 相続財産の確認
- 家庭裁判所への申し立て
- 限定承認の受理
相続人全員による協議
限定承認を行うには相続人全員の合意が必要です。相続人全員で限定承認をするかどうかの協議をしましょう。
相続財産の確認
限定承認の手続きには、遺産目録を記載して提出する書類があります。そのため、遺産について把握しておきましょう。
家庭裁判所への申し立て
熟考期間内に、被相続人の住所地等の家庭裁判所に事審判申立書(相続の限定承認の申述書家)を提出する必要があります。家庭裁判所で申し出を受理・決定がされると、限定承認が認められます。
限定承認のデメリット
限定承認は一見相続人にとって都合のよい制度に感じます。しかし、限定承認は単純承認や相続放棄よりも利用件数が少ないのです。
利用件数が少ないということは何かしらのデメリットがあるということです。限定承認のデメリットを3つ見ていきましょう。
- 相続人全員の同意が必要
- 債務清算手続きが大変
- 相続税の減税制度を受けられない
相続人全員の同意が必要
限定承認は相続人全員で限定承認する旨を家庭裁判所に申しでる必要があります。つまり、相続人全員の合意が得られないと限定承認を行うことはできないのです。
債務清算手続きが大変
限定承認は相続処理の中で裁判所の手続きによって債務を清算する必要があります。裁判所に所定の申請書を提出するなど煩雑な処理が必要になります。
みなし譲渡課税がかかる
被相続人が土地を持っていた場合に限定承認を行ったとします。この場合、税務署はこの土地をいったん売却したと考え、売却益に税金をかけていきます。この税金を、みなし譲渡課税と呼びます。
借金の相続放棄ができない場合
借金の相続放棄・限定承認をしたくても出来ずに、強制的に単純承認となってしまうケースが存在します。どんなときに単純承認とみなされてしまうのかは、民法第921条をみると分かります。
第921条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
つまり、以下の3つの行為をした場合は単純承認とみなされます。
- 遺産を処分した場合
- 熟考期間を経過した場合
- 財産を故意に隠した場合
遺産を処分した場合
遺産を処分した場合は、その財産を引き継いだとみなされ単純相続となります。
被相続人の通帳などから、現金をおろすなどの行為もこれに当たります。
熟考期間を経過した場合
熟考期間(3か月間)の間に相続放棄や限定承認を行わなかった場合は、単純承認を選択したと判断されます。
財産を故意に隠した場合
相続人が故意に財産を隠したことが発覚した場合、単純承認となります。
これは、相続人がプラスの財産を隠したうえで相続放棄を行うことで、プラスの財産だけを手に入れるという不正を防ぐためです。
借金の相続について まとめ
いかがでしたでしょうか。最後に、これまでの内容をまとめておさらいしましょう。
- 被相続人が生存していると借金の有無を調べることがでないが、死亡している場合は調べることが可能
- 単純承認を行うとすべての遺産を引き継ぐ
- 相続放棄を行うとすべての遺産を放棄する
- 限定承認を行うと、プラスの財産の範囲でマイナスの財産も引き継ぐ
- 強制的に単純承認とみなされる場合がある
借金を引き継ぐ可能性があると不安になると思いますが、相続放棄などの手続きを行うことで不要な借金を背負う必要はなくなります。
単純承認、相続放棄、限定承認のそれぞれにメリット・デメリットがあるので、状況に応じて使い分けられるといいですね。
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