父親が亡くなって借金を遺産相続してしまった!という話は珍しくないです。この時代、これだけ銀行やクレジットカード会社、消費者金融の会社があるのですから、もしかしたら借り入れがあるかもしれません。
それを完済しないで死んでしまう人も、もちろんたくさんいるということです。ただ、故人に対して「こんなに借金があったなんて!」と恨むのではなく、借金をどうするか決めなくてはなりません。
それも、できれば早めに借金の総額を把握して、相続するのか?放棄するのか?決めなければなりません。何人か相続人がいる場合には親戚で相談する必要が出てくるわけです。
今回は、故人が残した負の財産である債務を相続する場合と、放棄する場合の進め方をご紹介していきます。
債務を相続したらやるべきこと①【借金があるか調査する】
借金がどのくらいあったかは、故人が亡くなってから2カ月ぐらいすればおおよそわかってくるはずです。支払いはほとんどが、毎月払いですから支払いがなければ催促の請求書が届きます。
場合によっては債権者から電話がかかってきます。着信拒否していると故人の借金の全貌が見えてきませんから、この時期(2~3か月)は出来るだけ折り返しましょう。
このように、債権者が個々の状況を理解して、支払いを待ってくれるなんてことは絶対にあり得ませんから支払いが滞って1カ月もしたら必ず請求書はきます。
債務が見えてきたら、債権者リストを作成していきましょう。また、故人が商売をしていた場合で顧問弁護士に頼んでいたのであれば、亡くなったことを伝えれば事業のしめをして支払い内容を教えてくれます。
難しいことではありません。債務を一覧の表にまとめる方が、一目瞭然でわかりやすいので作成してみましょう。
債権者一覧 | 借入額 | 借り入れ日 | 最終返済日 |
かねかし商事 | 100万 | 平成〇年〇月〇日借り入れ | 令和〇年〇月〇日 |
借金クレジット | 50万 | 平成〇年〇月〇日キャッシング | 令和〇年〇月〇日 |
地方銀行ローン | 200万 | 平成〇年〇月〇日借り入れ | 令和〇年〇月〇日 |
債務を相続したらやるべきこと②【金融機関からの借金を調べる】
金融機関からやってくる請求書は、必ず開封して確認しましょう。また、銀行や郵便局の通帳を調べて、金融機関らしいところから引き落としがないか調べます。
引き落としがあったら、借金が残っていないか調査したほうがいいでしょう。完済していない場合があります。
しかし、請求書を待っているだけでは正確にはわかりません。故人が支払いを放置していたり、住所変更ですぐに請求書が届かない場合もあるからです。
取りこぼしがないかと思うと不安ですよね。きちんと正確に調べたいなら信用情報機関にデータを紹介することをお勧めします。
まずは、信用情報とは、クレジットやローンなどの信用取引に関する契約内容や返済・支払状況・利用残高などの客観的取引事実を表す情報です。
信用情報機関とは、金融機関で作っているデータセンターのことです。金融機関が1社の情報だけでは足りないので、金融機関でデータセンターを作り顧客の情報を共有しているのです。
金融機関は、顧客から借入れの申込みがあった場合、このデータセンターに情報を紹介して借入れをしている人の借入状況や事故情報(支払いの遅れや、自己破産など)を調べます。
「この人に貸して大丈夫か?」を判断する一つの材料になっています。ですから、信用情報機関に照会をすれば、被相続人がどこからどれだけ借金をしているかが分かります。
信用情報機関は、金融機関の種類ごとに分かれています。すべての期間に連絡して紹介してもらう方がいいでしょう。
銀行 ⇒ 全国銀行個人信用情報センター 通称K(KSC)
クレジット会社 ⇒ シー・アイ・シー 通称C(CIC)
消費者金融 ⇒ 日本信用情報機構 通称ジック(JICC)
債務を相続したらやるべきこと③【金融機関以外の債務を調べる】
金融機関からの借金以外にも、債務がある可能性があります。それは取引上の債務です。故人が生きていた時に、次のような契約をしていれば、これらも債務となり今後どうするのか決めなくてはいけません。
引き継ぐにしても、解約するにしても、相手に連絡して相談してみましょう。相続の引き継ぎの仕方や、解約する場合の手続きの仕方を教えてくれます。
- 公共料金
- インターネット回線
- ケーブルテレビ
- フィットネスクラブ
- 各種の同好会
- 各種の賛助会員
- 業界団体
- 書籍の定期購読
- 生命保険
- 貸金庫
- ゴルフ会員権
これらは、一見債務とは思えませんが料金が発生しますので債務となります。解約が遅れて会費や料金を余分に払うことになりかねませんのでご注意ください。
債務を相続したらやるべきこと④【知人からの借金はないか?】
実は、これが一番厄介ですよね。信頼できる親族や、知人ならストレートに「父はお宅様に、お金の借り入れなんてしてませんでしたでしょうか?」と聞けますが、そう簡単ではありませんよね。
知人からの借金が気になるのは、心当たりがあるからでしょう。もし故人が商売をしていて家族でも把握しない人との関わりがあるとしたら、借り入れがあるかなんてちょっと聞きにくいですよね。
借金があったか確認したいなら、「父が亡くなりました。生前はお世話になりました。お知らせとお礼まで」と連絡をしてみましょう。もしも、「実はお金を貸していて」なんて言われてもすぐに信用してはいけません。
本当かどうかわかりません。ですから「借用書の写しを送ってください」と伝えてください。2カ月ぐらいたっても借用書も請求書も送ってこなければ本当でなかった可能性が高いです。
債務を相続したらやるべきこと⑤【相続する場合の注意点】
債務を支払うとなれば債権者に連絡して、今後どうしていけばよいか確認します。なぜかというと、債務者名義の変更や、口座の変更など手続きが必要な場合があるからです。
債務を相続する時に気を付けなくてはいけないことがあります。それは、相続人が一人ではなく複数人いる場合です。相続人が複数いるときの相続を共同相続といいます。
共同相続の場合、借金の金銭債務は相続開始と同時に共同相続人に対して、相続分の割合に応じて相続されます。これは相続人どうしで話し合う遺産分割とは違うのです。
相続人の話合いで、債務を引き継ぐ人を決めることはできません。500万を相続したとします。相続人が子供2人だとすると、相続完了と当時にそれぞれ250万ずつの債務を相続することになります。
- 相続人のうちの1人が債務を引き受けることはできない
- 相続人は自分の分だけ法的な責任を負い、他の相続人の分は無関係
つまり、相続分だけがあなたの背負う債務という訳です。他の相続人が仮に払わないと言ってもあなたは自分の分だけ支払えばいいのです。
でも、その相続人が相続放棄をしたらあなただけが相続人となり、全額あなたが支払うことになってしまいます。
債務を相続したらやるべきこと⑥【放棄する場合】
相続する予定の遺産よりも債務の方が多い場合、債務を相続しなくてよい方法は、相続放棄しかありません。むろん、相続の放棄と言うことは遺産も放棄することになります。
共同遺産相続人の遺産分割協議で「相続放棄します」と書いて実印を押したとしても、法律的に相続放棄をしたことにはなりません。 相続放棄は家庭裁判所に書類を提出することで成立します。
- 相続放棄の書類を準備する。(「相続放棄の申述書」と添付書類を作成)
- 管轄の家庭裁判所に提出して行います。
- 家庭裁判所にて受理され終了。
もしも、申述書の書き方がよくわからなかったり、書類の集め方が分からないなら最初から司法書士に依頼した方がいいでしょう。手続きを全部やってくれます。
債務相続したらやるべきこと⑦【限定承認を受ける場合】
限定承認とは?
「相続人が、相続した積極財産の額を限度として相続債務等を支払う」という責任を限定した形で行う相続承認のことです。
相続は、原則3か月以内に相続を承認するか放棄するか決めなくてはなりません。「相続を承認する」とは資産も負債もすべて引き継ぐことです。
「相続を放棄する」とはすべて相続関係から脱退する、つまり相続人にならないようにすることです。
この二つの間に位置するのが「限定承認」です。責任限定付きの相続承認となります。
両親が亡くなって、相続財産として住宅を残してくれました。でも、借金もたくさんあり、正直自分たち相続人が支払っていけるような借金の額ではなかったので、相続放棄するしかないのでしょうか。
でも、親と同居していた自分は住む家を失うことになります。相続を放棄したら、家を出て新たに探さなければならない。この家には愛着もあるし、できればこの家に住みたい。
でもこの家だけ買い取るとかできないだろうし、放棄したら家は取られてしまう。家をもらうなら借金も全額相続しなけらばならないから・・やはり家はあきらめるしかないのでしょうか。
他にも、価値ある相続財産があるのはわかっているが、商売をしていて銀行などに債務があるのもわかっている場合。相続財産が多いのか、債務の方がわからないなら「限定承認」もいい方法です。
債務の方が多ければ相続財産内での返済となりますからマイナスにはなりませんし、相続財産の方が多ければ返済した後に財産が残ると言うわけです。
限定承認の手続きは相続放棄よりも面倒。
実は、「限定承認」の申し立ての手続きは「相続放棄」の手続きよりも大変なんです。限定承認は相続放棄ではありません。相続債務等の支払いは免除されません。
その支払い額に、「相続によって得た財産の限度において」という上限がかかるだけなのです。最大で、相続した財産の評価額いっぱいいっぱいに等しくなる額まで相続債務等を弁済しなければいけません。
ですから、財産の評価額の調査がとても重要で時間がかかります。また、債務の全貌をしっかり把握するための調査もあなたが進めるのは大変な事です。
ですから、専門家の行政書士に依頼するのが普通ですが依頼料も発生しますし、債務を返済するには一括返済しなくてはならないので、一括で返済できなければ別のところから借り入れなければなりません。
- だいたいの相続財産を調査する。
- 共同相続人で方針を合意する。
- 家裁に出す書類を準備する。
- 家裁に申立て(限定承認の申述)をする。
- 受理審判が出される。
- 官報公告をする。
- 財産の管理と弁済のための換価競売をする。
- 場合によっては財産の鑑定手続を進める。
- 債権者等への弁済をする。
- 余ったら相続する。
これだけの、手続きを踏むのは素人では難しいのが理解できますよね。
相続財産以内で、債務を返済しトントンになるか?余るか?はできれば事前に把握しておくことが一番です。相続人が、生前に準備することもできます。
相続を放棄するか、限定承認するべきか悩みどころですが一括返済できるかが大きいので、慎重に共同相続人で話し合いが必要になってきますね。
債務を相続したらやるべきこと⑧【相続放棄の期限は?】
相続放棄は、「自己のために相続の開始があった時から3か月以内に、家庭裁判所に書類を提出する」とされています。自分で放棄したと宣言するだけでは相続放棄は成立しません。
故人が亡くなったことを知らなかったり、自分より優先順位の相続人が亡くなっていたり、自分が相続人になっていることを知らなかったのであれば3か月の期間は、その事実を知った時からスタートします。
しかし、次のような場合には3か月を経過していても、相続放棄ができる場合があります。あなたがこれに当てはまるなら、司法書士に相談してみてください。
- 遺産(資産も負債も)がまったくないと思っていた。
- 遺産の存在を知ってから3か月経っていない。
「そんな法律があるのを知らなかった」というのは理由になりませんから要注意です。法律を知らないというのは通りません。
債務を相続した時の豆知識!
「相続放棄」の本当の意味
法律用語としての相続放棄とは「相続が開始した後に、家庭裁判所で行う相続を拒否する意思表示であり、その結果初めから相続人にならなかったものとみなされる法律効果を生じさせる行為」のことです。
相続放棄をすると、初めから相続人にならなかったものとされます。「相続したがいらない」ではなく、最初から相続とは関係なかった人になるということです。
ですから財産も相続できないし、負債も引き継ぎません。当然相続人がする遺産分割協議にも参加できません。それは、相続人ではなくなるからです。
「遺産放棄」「財産放棄」の意味と注意点
「遺産放棄」「財産放棄」の意味は、「相続が開始して共同相続人になったが、共同相続人でする遺産分割協議で、自分が財産を相続するのを遠慮するということ。又は自分の相続分を他人に譲ること」です。
ここで、気をつけないといけないのは、法律的な意味での上記の相続放棄をしたわけではないので、相続人であり続けるということです。
プラス財産は放棄したけど、マイナス財産(負債)は放棄できていません。マイナスの財産(借金や負債)は、相手方のあることなので相続人の意思だけで、いる、いらないは決められません。
決められるのは他人に迷惑をかけないプラスの財産についてだけなんです。要するに遺産放棄や財産放棄をしても、借金から逃れられることはできません。
まとめ
故人が亡くなった後の、遺産相続のお話をしてきました。必ずしも遺産がプラス遺産だけでなく、負債の遺産もあるかもしれません。
相続の話が出てくると言うことは、既に借金は故人のものではなくあなたの問題になったことになります。あなた自身が事実確認を把握してどうするか判断しなければなりません。
遺産放棄をして借金から逃れるか、借金ともども遺産を相続するか。3か月という期限がありますのでくじけることなく法律に伴って手続きを進めてください。
誰もがいつかは経験することです。知らなかったは通用しません。あなたが後悔のないよう正しい判断をすることが大事です。この記事が、遺産相続の仕方のヒントになれたら嬉しいです。